年々増加する赤ちゃんの「発語能力」のお悩み(赤ちゃんのコミュ力前編)【藤原さんの育児学Vol.30】

レインディア藤原さん
レインディア藤原さん

多くの方から相談が寄せられる「赤ちゃんの言葉の発育」

コロナ禍で当店も来客が減り、育児相談もパッタリと無くなった夏でしたが、秋に入って少しずつですが来店される方が出てきました。

お客さんが来ると、ついつい熱が入って喋りすぎてしまうので、やはり私は接客業が好きなんだなと実感しているところです。

人と会話をする事が苦手な人も多いと思いますが、コロナ禍の今だからこそ特に大切な能力でもあります。
今月のコラムは、赤ちゃんの発語から言葉の発育、お喋りやコミュニケーション力についてお伝えしようと思います。

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低年齢化が進む「発語チェック」の課題

言葉についての相談はとても多く、毎月必ず寄せられています。
その中でも、近年増えてきた相談は「1才半健診で言葉の遅れを指摘された」というものです。

1才半健診を受けた段階で、意味のある単語を発さないと「要観察」と言われてしまいます。
私が育児研究を始めた2008年頃は、このような医師や保健師からの指摘は2才半の段階でありました。

その後、2010年頃には北海道のお客様から2才の段階で発語の指摘を受けたと相談が入るようになり、当時私は「冬場の北海道では健診にも中々行けないから、早めに指摘するようになったのかな?」と感じた事を覚えています。

しかし、実際は地域関係なく、発語チェックがどんどん低年齢化していき、最近では1才半健診で指摘されるようになってきました。
問題は、言葉の遅れなどを早く指摘するようになっても、行政や医療現場のフォロー体勢が整っていないことです。

つい先日寄せられた相談では、1才半健診で言葉の遅れを指摘され、その後、地域の子育てNPO団体を紹介されて行ったが、スタッフさんがグイグイ子どもに関わってきて恐がるようになり、行くこと自体をイヤがってしまい困っていますとの事。

相談を受けた私は、まずは近況などをお母さんと約1時間会話し、その後にお子さんと1時間、一緒に遊ぶ事にしました。

時間はかかりましたが、最後の方になってくると単語を次々と話すようになってくれます。
男の子だったのですが、「きゅーきゅーしゃ」「ぱとかー」など、乗り物の名前が出始めたかと思ったら「どうぞ」や「バイバイ」もしてくれます。

この子の場合、単に1才半健診の場の雰囲気に緊張して、言葉が出なかっただけではないかと推察されます。
私はこのお母さんに、「親子関係がしっかりできているからこそ、初めて会った人に人見知りをしたのでしょう。いいことですよ!」と伝えました。

ちなみに、私が子どもと一緒に遊ぶ前に、お母さんとしっかり話をしたのは、子どもは“お母さんと仲良くする人は安全だ”と受け取ることを知っているからです。

子どもの緊張を解くのに大切なのは、お母さんの緊張を解くことがカギ。
ですが、1才半健診の場でそれができる余裕やスキルがあるのでしょうか。

私が娘を連れて健診に行った時にも、流れ作業的にたくさんの親子が並んでいました。
健診を受ける親子にストレスのかからない改善を期待したいところです。

過保護と育児知識の無さが招くキケン

そして、次は逆に保健師さんや保育士さんから寄せられた言葉の相談を紹介しましょう。
私がある町の子育て支援センターで講演を行った時の事です。

私はいつものように、来場するお母さん方ひとり一人の質問や悩みを聞くために、何歳くらいの子どもを持つ親御さんが来るか聞き取りをしていました。
すると、保育士さんから「心配な子どもがいる。生まれて間もなく保育園に預けられ、最初の発語が“しぇんしぇい(先生)”になった子がいる」と伝えられました。

実は、こういった話も近年急速に増えています。

人生最初に話した言葉が、「ママ」や「パパ」ではなく、「先生」となるのは保育園滞在時間が長いのが要因ですが、これには大きな問題があります。
赤ちゃんにとって、バッバッや、パッパッの様な爆発音は言いやすく、ママと言いたくても言えなくてパパと言う子は多いものです。

しかし、「せんせい」は言いにくいのに言葉に出すと言うことは、その子は親よりも先生を自分の成長の指針としてインプットし、マネする対象として捉えている事が推測されます。
こうなると何が問題かと言えば、親の言う言葉をマネしない、親のお喋りを理解しようとしない、といった事が心配され、その結果、家庭での育児が大変になっていきます。

日本では、保育園整備を進めていますが、少子化に歯止めがかからないばかりか、親子を引き離し、家庭内のコミュニケーションが取れない子どもが増えてきています。
北欧では、保育園は“第二の家庭”と言われますが、日本では保育園が第一の家庭になり、親と過ごす家が第二になってきているのです。

もう1件、別の相談事例を紹介しましょう。

その子は男子2才5ヶ月、おばあちゃんと叔母さんに連れられて当店に来ました。
「言葉をまったく喋らない。成長が遅れていたり、障害があったりするんでしょうか?」との相談です。

私は医者では無いので、そういった判断はできません。
しかし、その子には表情が無く、おもちゃを指さして「んー」とだけ意思表示します。

そのまましばらく店頭のキッズコーナーでの様子を見ていると、おばあちゃんが次々とおもちゃを渡して遊びを促そうとしておられます。
ままごとで遊んでいると、「こっちに電車があるよ」と呼び、電車で遊び出すと「ほらパズルをしてみる?」と子どもが遊ぶのを待てないような感じで急かしています。

私はそのおばあちゃんに、「スミマセンが、男の子はひとつの事に集中するのに時間がかかりますから、何もせずに見ていてください。」と注意しました。
すると少しずつ電車で遊び始め、私に電車を持ってきてくれました。

子どもが心を開き始めたので、私は声が聞きたくなり、滑り台を滑らせてあげました。
とても驚いた顔をしていて、おばあちゃんに聞くと「危ないからと滑らせた事が無い」との事。

続いてさらにブランコにも乗せてあげました。
最初身体が硬直しているので、軽くコチョコチョしてマッサージし、ゆっくり動かしてあげると、「あっあっ」と声が出てきます。
少し続けていると笑い出すようになり、その姿を見たおばあちゃんは「うちの子が笑っている姿を初めて見た!」とスマホで動画を撮影し始めました。

皆さん、2才5ヶ月になるまで子ども(赤ちゃん)の笑った姿を見たこと無いなんて信じられますか?

よくよく話を伺うと、成長に必要な経験は保育園でしているはずだから、家では危険に繋がることをすべて排除しているとの事で、箸もフォークも使わせないし、重たい物も持たせない、公園の遊具も落ちたら危ないから使わせなかったと。

過保護と育児知識の無さが、子どもから表情も言葉も奪っていたのです。

人前で喋れなくとも「親の前でたくさんおしゃべりする子」であれば問題なし!

今年ユニセフが発表した子どもの幸福度調査で、日本は38カ国中総合順位20位と低位なのは、日本の育児政策が親子関係に焦点を当てていないからでしょう。

1才半健診で言葉を指摘された最初の親子は、保育園を使わずお母さんが育児をされていました。
ひと昔前なら1才や2才の子どもは家で育てていた家庭が大半で、「公園デビュー」という言葉があったように、親子で徐々に社会に慣れていっていました。

今はどうでしょう? 平日の公園には誰もいません。

健診の場で上手に喋る子よりも、内弁慶と言われようと、親の前で言葉をたくさん話す事の方が大切だと私は考えます。

1才半健診で親を不安にさせることよりも、言葉をどうすれば発してくれるか、どうすればお喋りが上手になるのかを親に教える事が先だと思います。

次回後編では、言葉の発達の順序や育て方をお伝えします。

後編はこちら

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この記事を書いた人
レインディア藤原さん

Reindeer 代表取締役社長

レインディア藤原さん

北欧インテリアショップ『reindeer』、木のおもちゃのレンタルプログラム「もくレン」などを運営。中海テレビ「県議熱中討論」コーディネーター、よなご宇沢会幹事も務める。幼稚園や保育園、市町村の子育て支援センターなどで育児講演を行う。乳幼児の育児相談から不登校問題もお気軽にどうぞ! いつも作りかけのお店はまさに秘密基地、まずは自分でするのが藤原流であり、北欧から学んだこと。お喋り大好きな二児の父です。

最近では、米子市岡成で子育て支援プロジェクト『コーセリ』の代表理事を務めています。私は子どもが生まれる前の妊娠期から、子育てや子どもの発達について学びながら準備をしていくことが、子育ての不安を減らすうえで大切と考えています。そのような視点から、子育て世代の親を対象としたセミナーを企画・開催しています。また、子どもと一緒に参加できる体験教室やイベントなども行っています。

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