ポストコロナの教育は?家庭と専門家・行政の間に入る“中間保育”の考え方【藤原さんの育児学Vol.52】
注目が集まる“就学前教育”。ポストコロナ時代の教育はどうなる?
先日、ネットニュースをチェックしていると、読売新聞の記事で「文部科学省が小学校入学時の学習態度や学力の差をなくそうと、5歳児向けの共通教育プログラムを作る方針を決めた。(7月6日)」という記事がありました。
当コラムでも何度か取り上げているように、私は義務教育スタート段階の格差が、後の教育レベルやクラスでの人間関係、イジメや学級崩壊など、様々な問題の始まりであると考えています。
ですので、この国の取組は大賛成といったところで、ようやく日本でも“就学前教育”を、国民が平等に受けられるようになるのでは、と期待しています。
一方で、コメント欄を読むと、教育評論家と名乗る人々が「また保育園や幼稚園の負担が増える」などと批判をしていました。確かに、近年の日本の保育園や幼稚園の状況を見ると、新たな方針に対応できる余裕はないでしょう。
コロナ対策ばかりでなく、保育園が補助金事業として広まり、異業種からの保育園ビジネス参入が相次いだため、最低限の人数で、最低限の保育サービスしか提供していない事業者が増えました。
それによって、看過できないくらいに子どもたちの成長格差が広がり、「小1プロブレム」といった言葉が生まれたり、小学校1年生で学級崩壊が起こったりと、問題は増えてきています。
まさに今、日本の教育はボロボロな状況。
本来、教育は経済学で言う新自由主義的な市場競争に任せてはいけない分野です。それを、国からの助成金で安定したビジネスになり、子どもは文句も言えないからと、金儲けに邁進する政治家や金融マンが全国に広がってしまいました。
先日も、保育園バスの中に取り残された5才児の痛ましいニュースがありましたが、そもそも園長先生が一人で運転も送迎も担っているというのは、職場環境として問題があるように思えます。
少し話題が逸れましたが、要するに前出の就学前教育を実践することは保育園はもちろん、幼稚園でさえも難しくなってきているのが今の日本だと、みなさんにも知っていただきたいと思うのです。
では、昔のように親や保護者が家庭で教育をしなければならないのでしょうか?
それは、もっと難しい時代ですよね。夫婦共働き、核家族化、晩婚化による介護と育児の両立など、育児環境は社会構造的に余裕がなくなっています。コロナ禍で家庭時間は増えましたが、ネグレクトやDV、栄養の偏りや友達と遊べないなど、問題が見えにくくなってしまった面もあります。
そこで今回はみなさんに、ポストコロナ時代の育児環境をどう整備するべきなのか、を私の提案としてお話したいと思います。
社会が複雑化する中で、育児の選択肢が二択しかないのはどうなんだろう?
近年、産後ウツがメディアなどでも取り上げられ、産後ケアの重要性に注目が集まっています。NHKの番組では「産後クライシス」という言葉とともに取り上げられていました。人類はその昔から集落などを形成し、集団で育児を担っていた、現代のように母親だけに負担を強いるのは間違っているという見解です。
また、「サードプレイス」や日本版ネウボラの必要性も話題として取り上げられるようになってきました。
産後ケアは、出産後に孤立して育児の負担を一人で抱えてしまうお母さんの負担を軽くする目的があります。近年の日本では、子どもが誕生して2才になるまでに40~50%の夫婦が離婚しているというデータもあり、赤ちゃんの育児期間に家庭が崩壊するのは、産後のサポートが足りていないことの表れだとも言われています。
「サードプレイス」、第三の居場所は、家でも居場所がなく、学校も辛いといった子どもを守る場所として注目を浴びています。
例えば、子ども食堂や小学校低学年向けの学童保育は急速に増えています。もちろん、学童保育には助成金が出ていて、そういったお金目的な運営をしているところには注意が必要ですが……。
行政サービスとしては、保健師の訪問や子育て支援センター、児童相談所など様々な取組があります。習い事や各種教室、学習塾などの専門的知識を学ぶ場もあります。
改めて挙げてみると、このようにたくさんの育児支援に係わるサービスが存在していることが分かりますね。ただ、これらを整理してみると日本の育児環境の問題点が表れてきます。
それは、「家庭」か「専門家」かの二択しかないという点。
特に山陰などの地方都市は、企業や非営利団体などの育児環境整備が少なく、選択肢が限られています。新型コロナが広がり、学校や保育園などが休園となると行き場はなくなってしまいます。家庭で子守をするにも、おもちゃや絵本、食事や健康チェックなど、すべてをしっかりと整備できている人は少ないのではと思います。
親も子も一人にしない!「中間保育」という概念
このような時に必要な概念が「中間保育」という取組。この言葉、私が作った造語ですが、家庭と、行政・専門家との間を埋める保育環境整備や取組を表したものです。
例えば、子育てサークルなどの取組の一部はこの例かもしれません。育児経験者が、自分の経験を元に新米ママさんたちのサポートをする場は、いつの時代も歓迎されています。
しかし実際は、親子でいつでも気軽に行って楽しんだり相談できるというワケではありません。いつでも気軽に行ける、そして悩み相談したり育児のアドバイスを受けられるような“真ん中の場所”がこれからの時代必要となってくるでしょう。
近年の社会問題は、より複雑化してきています。例えば外国人労働者問題、就労している外国人が妊娠した場合を想定してみましょう。
企業に知られると雇用が止められたり、ペナルティーが科せられたりすることがあり、それを恐れて行政に相談しないという話を聞きます。結果、無戸籍で教育を受けられない、医療サービスを受けられない子どもが出てきます。
また、別の視点で見れば、育児に専念するために離職し、その後に育児に余裕が出てきて再就職したいと思った時はどうでしょう?子育て中の親はフルタイムで残業は遠慮したいですし、子どもが病気になって休むことも多いので、それらを理解してくれている企業を知れる場があれば良いですよね。
子どもが二人三人と増えて、引っ越ししたいと思った時はどうでしょう?子連れで不動産屋を回るのは大変ですし、行政は県営住宅や市営住宅くらいで、治安や騒音問題、校区などを含めた不動産相談にはのってくれませんよね。民間企業との連携がとても大切になってきます。
育児を家庭や行政、専門家という人々に任せっきりにしない、民間企業や市民がそれぞれの立場で育児を支援していく考え方、それが「中間保育」の捉え方です。みなさんの職場において、地域において、子どもや親子とふれあう場を作る事、そういった場が冒頭の就学前教育に繋がる取組になっていくと思います。
今回のコラムは、いつもとは思考を変えて啓発的な内容にしてみましたが、ちょっと分かりにくかったかもしれませんね。詳しく知りたい方、興味を持っていただけた方、気軽にメールなりいただければ喜びます。
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この記事を書いた人
Reindeer 代表取締役社長
レインディア藤原さん
北欧インテリアショップ『reindeer』、木のおもちゃのレンタルプログラム「もくレン」などを運営。中海テレビ「県議熱中討論」コーディネーター、よなご宇沢会幹事も務める。幼稚園や保育園、市町村の子育て支援センターなどで育児講演を行う。乳幼児の育児相談から不登校問題もお気軽にどうぞ! いつも作りかけのお店はまさに秘密基地、まずは自分でするのが藤原流であり、北欧から学んだこと。お喋り大好きな二児の父です。
最近では、米子市岡成で子育て支援プロジェクト『コーセリ』の代表理事を務めています。私は子どもが生まれる前の妊娠期から、子育てや子どもの発達について学びながら準備をしていくことが、子育ての不安を減らすうえで大切と考えています。そのような視点から、子育て世代の親を対象としたセミナーを企画・開催しています。また、子どもと一緒に参加できる体験教室やイベントなども行っています。
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